自分史を書く試みから本へ ~出版の歴史を辿りつつ~

講師 大垣書店 相談役出版部長 平野 篤 先生

自分史を書く意味は? 事実を整理しつないでいくと自分の考えてきたことが見えてきます。
唯一無二の自分が見えてきます。それを本にするための講座です。
合わせて、意外と古い印刷と出版の歴史についてもスライドを通して教えてもらいました。

1. 自分史の意味

①自分の歩んできた道の事実を整理
整理した事実を繋いでいくと、自分の考えていた事が見えてきます。
唯一無二の自分が見えてきます。
自分という人間を理解することから始めます。
②事実関係の整理から節目と転機が見えてきます。
自分の中で何かが変わっていく時です。
自分はどんな人か? 人と比べて何が違っているのか?
社会に対してどう考えていたのか?
③若い時から以上のようなことを整理していくと、変化した考え方、感じ方が見えてきます。
成長から成熟そして老化さらに老衰などの過程が見えてくるでしょう。
それでも、これからの未来を考えるためには現在の自分を見つめ直して再認識することが重要です。
精神は老化するものではないことを認識しましょう。
青春とは心の様相をいうのです。
自分史はエンディングノートとは違います。

2. 本にするために

誰のために書くのか? 考えていることを書く=自分との対話です。
家族の為でもなく、書くのは自分の為です。
本はおもしろくないとダメ  文章に血液が流れるようになると面白くなります。

3. どうやって書き進めるのか

①まずは生まれた時から大まかな区分をつけて年表を作成します。
 区分は子供時代、学生時代、就労時代、退職後 
②年表の項目は次のような枠を設けます。
 ・自分自身の直接的な事を書く枠
 ・家族や友人の枠
 ・社会の出来事、関心のあった事をメモする枠
③記憶の整理を手助けする材料、資料を集めます。
 写真、文章、作品、手紙、年賀状、通院記録など書くための手がかりとなるものを収集します。
 自分が「書きたい事のメモ」の作成
④書き始める
・全体との関係は無視して、書きたい項目から書き始めます。
 まずは書いてみないとわからないので、悪文OKです。
 メールのように相手を意識しない文章で書きます。
・各項目に文章が書けたら、それぞれタイトルをつけます。
・全体を通してバランスを考え、章とタイトルを見直します。
・不足が無いか検討します。あれば追加し書き直しも行います。
・写真や図などの挿入も検討します。

4. 内容の推敲と加筆

①文字になった記憶が事実に即しているかチェックします。
②家族も含めて他者に関する記述は客観的事実を主とし、感じ方考え方は自分の意見として添えるように配慮します。

5. 記述の矛盾などの確認

特に時系列が矛盾していないか確認します。
登場人物の氏名には十分注意します。

6. 本を作る

読んで理解できないとダメなので、本にすることは大変な作業です。
編集者と対話しながらわかるように作業していくとおもしろくなります。
正直に書くことで、血が通った文章になっていきます。
①著者が原稿を執筆する。
②著者と編集者が原稿をチェックし整理する。 第3者の眼を通す作業です。
③編集者が概ねのページ数や頁割り当てを決めます。
 ・原稿の全体量から暫定のページ数を設定し、著者の希望に沿っているか確認します。
 ・原稿の加筆、修正、あるいは間引きについて著者と検討します。
④初校紙作成  
 著者と編集者で校正作業を行います。
⑤印刷会社 再校作成
 著者と編集者が再校を校正します。
 校正作業が終了すれば、校了&責了となり、印刷に回ります。
⑥印刷会社が製本し納品となります。

7. 印刷の歴史

日本最古の印刷物は法隆寺蔵の百万曼荼羅尼(770年)のようです。
中国にはもっと古い書物も存在すると考えられますが、確かな時代を示す証拠が見つからないようです。
印刷の広がりは鎌倉時代の仏教思想によるところが大きいようです。
平安時代は貴族の仏教でしたが、鎌倉時代になって仏教が一般市民に広がるに及んで、経典が広く印刷されるようになったようです。
経典の印刷は平安時代から行われていましたが、鎌倉時代に問答を行う臨済宗のお寺で多くの書物が印刷されています。
印刷機を発明したのはドイツのグーテンベルグですが、以前からあった印刷技術と木版画方式から金属機械に技術を集大成したものです。
それぞれ個別の技術は各国各地に存在していたのです。
漢字文化圏の日本では先端技術を持っていた寺院で行われ、農業書、漢籍、旅のガイドブックなど書物として多く残っています。
江戸時代には南総里見八犬伝など娯楽書も多く出版され、江戸の庶民の識字率の高さに貢献しました。
欧州では印刷技術は宗教と政治が取り込んでいたので、市民には広がっていませんでした。
フランス革命で革命理論などを広めるために市民レベルで使われ始めたのが切っ掛けで全体に広がったようです。
これらの新し印刷技術は明治期に日本にも伝わってきます。三省堂、丸善などの書店ができる切っ掛けになりました。
中央公論など専業の出版社も創業しました。