講師 立命館大学 スポーツ健康科学部 上田 憲嗣 先生
1. コオーディネーションという言葉
Coordinationの元の意味は「協力する」だと思います。
対する言葉にSubordinationがあり、運動の場合は脳が指令を出し、手足が指令に従って動くイメージです。
コオーディネーション運動となると脳と手足が協力して動くというイメージになります。
この考え方はベルシュタインというロシアの科学者が言い出した理論です。
ハンマーで釘を打つ動作を観察した結果として、熟練した大工の動作は脳が指令を出して行っているとは思えないと考えたことです。
ハンマーを持つ腕は手首から肘、肩など多くの関節と筋肉が関係しています。
少しの乱れでハンマーの位置は狂います。
これを修正しているのは脳ではなく、それぞれ関係している筋肉が連携して修正しているように見えると言い出したのです。
この考えに共感した西側の科学者マイネルとシュナーベルがスポーツ科学に取り入れて体系化しました。
2. 動作コオーディネーション運動学の体系化
野球のバッティングは筋力だけでなく、別の能力も必要です。
動体視力のようにボールとストライクを見分ける力、バットをボールに当てる能力など筋肉に関係ない能力を情報系の能力と言います。
どんな運動も必要な能力はパワーや持久力などのエネルギー系と技術などの情報系に分かれます。
この情報系にコオーディネーション能力が含まれます。
運動の能力は年齢に関係なく、鍛えられる筋力、持久力などの能力もありますが、学童期に延びる能力がコオーディネーション能力です。
運動学習能力はその典型です。
小学生は一輪車の練習をすれば、すぐに乗れるようになります。
しかし、15歳以上になると練習しても容易には乗れません。
3. コオーディネーション能力は年齢が4歳~13歳の間で伸びる
①反応能力 情報を選択して素早く反応する能力 短距離走のスタート、ボールの動きに対する反応
②リズム化能力 与えられたリズムを正確に再生する、リズムを認知し自分の動きに変換する
③バランス能力 バランスを維持し、崩れを回復する、動的なバランスは加速度にも対応する
④空間的定位置能力 コート内でボールの位置により、時間的、空間的に自分のポジションを変化させる
⑤運動筋肉感覚の分化能力 手足や道具、ボールやバットを正確に動かす能力
★これらの能力を適正な年齢で鍛えておけば、どんなスポーツをやってもある程度できるようになります。
15歳以上になってから、自分の体形や好みによって進路は決めれば良いのです。
若い時に筋トレなどで筋肉がつくと骨が成長する時期に筋肉が邪魔をして背が伸びないなどの問題になる。
学童期に筋トレは必要なく、コオーディネーション能力を重点的に鍛える方が効果的です。
4. コオーディネーショントレーニングを行う時の原則
①コオーディネーション運動自体の完成度は求めない。トライ&エラー、脳に経験させることが重要。
②少ない反復回数で異なるエクサスサイズを数多く行う事が重要。
③目標に基づいて条件を頻繁に変化させ、何度も繰り返し行う。
同じことの繰り返しは脳が飽きて学習意欲が減退するので効果的ではない。
5. コオーディネーション運動の実施
①バリエーション法
動作コオーディネーション能力の形成に最も重要な原則で、目標を持って方法、前提条件などを多様にする方法。
②コントラスト法 連続で予測できる練習を回避する方法
ボールを投げる練習で使うボールの重さを頻繁に変えて練習すれば高い経験を積める。
③オーバーポテンシャル法 目標とするレベルより高い課題を設定するとより高いレベルの能力に繋がる。
④負荷増強法 単純に負荷を増やす、正確さのレベルを上げる 心理的負担を増やすなど
★運動の完成度を求めず、トライ&エラーが重視されるので失敗する不安がない。
体力が必要な訓練のような運動ではないので体力的な辛さがない。
6. 将来のトップアスリートを育成する為のタレント発掘と育成に使われている。
動作コオーディネーション能力に優れた子どもを発見してその能力を育成する。
その子の能力を評価し向いているスポーツを紹介する活動をしている事例が全国に広がっている。
7. 高齢者の体力維持や向上にも使えるのでしょうか?
運動自体は楽しく実施できそうです。
いまさら能力を発掘されても遅いように思いますがどうでしょう。