日本舞踊家が伝える美と健康 ~次世代に残す、大切な日本のこころと文化~

講師 正派西川流 名取、師範 西川 玉州 先生

東京芸術大学音楽部 邦楽科日本舞踊専攻を卒業された先生です。
「美しい日本の心と文化」を次世代に伝え残す事を目的として、各地で講演活動をされています。
日本舞踊を通して日本文化の心を教えてもらいました。

1. 日本舞踊の起源

世界中の伝統舞踊に共通する事は神様への感謝、神様への祈り、喜びを表現し楽しむことです。
日本舞踊の起源は古事記に遡ります。
古事記には太陽神であるアマテラス大御神が天の岩戸にお隠れになり世界が暗闇に閉ざされた時のことが書かれています。この危機を救ったのが岩戸の前で踊った舞手アメノウズメミコトでした。
三日三晩、舞い続け、周りに集まった八百万(ヤオヨロズ)の神々がその面白さに笑い喝采を送ったことで、その騒ぎに心を動かされたアマテラス大御神が岩戸を開けたといういきさつが書かれています。
おもしろい(面白い)と言う言葉があります。
岩戸を開けた時にアマテラス大御神の発する光が神々の顔にあたって白く光って見える様を表わしたことに語源があるとされています。
アマテラス大御神への感謝と祈り、喜びと楽しさが舞の起源とされています。
神楽と言う言葉もありますが、読んで字のごとく神を楽しませる踊りです。
日本人が思う神は八百万の神と言う表現があるように神はどこにでも居ると考えています。
神は自分自身の中にもいると考えることができます。
舞踊は自分自身が楽しみ、人々を楽しませるものと考えるのです。

2. 舞踊の変遷

①出雲の阿国
江戸初期(1600年代)にでた女性舞踊家です。
現在の宝塚歌劇団のように女性が男装をし、色恋のお芝居をして人気になった人です。
江戸幕府はこの状況をよしとせず、女歌舞伎を禁止します。
結果、若い男性がやるようになるのですが、この若衆歌舞伎も禁止します。
このような状況から歌舞伎は野郎歌舞伎、つまり男性の歌舞伎になったようです。
かぶき者とはかたぶく者、まっすぐでない者、まっとうでない者という意味になっています。
現在の歌舞伎は男性のお芝居で演者はすべて男性ですが、鬘(かつら)衣裳をつけるので役柄は見ればわかるようになっています。
②日本舞踊
日本舞踊は歌舞伎の舞踊から派生したものです。
演者は男性、女性を問いませんし、何にでもなれます。
日本舞踊は舞、踊り、しぐさの三つの要素を持っています。
舞:静かで動きが平行移動します。
踊り:躍動する縦の動きがあります。
しぐさ:美しい礼の姿、立振舞いの美しさを見せる動作です。
着物を着て、日本の伝統楽器の演奏と唄いで舞います。

3. 日本舞踊の特徴

①歌詞に準じた振付で歌詞と振付は合致している
②役柄の演じ分けに男女の制限は無く、どちらがやっても良い
③自然描写 花びら、波、風など自然を表現するしぐさ、手の動きがある
④見立て 特に扇子を傘や徳利、盃などの代用に用いる
他国の舞踊との違いはで踊りの重心が下にあることです。
日本人が土と共に生きて来た為と考えられます。
西洋の踊りは神が天にある為と思いますが重心が上にあります。

4. 長唄「藤娘」

滋賀県の代表的な踊り 長唄「藤娘」を先生が舞ってくださいました。
藤娘は大津絵の題材として数多く描かれています。
舞台ではなく、雑然とした教室の中でしたが美しい舞姿に暫し、見惚れました。
藤娘の舞は歌詞を読んでもらって意味を理解すると舞がその歌詞に合わせたしぐさになっていることがわかります。
気づくと「なるほど」と思う箇所もありますし、しぐさの優雅さにも美しさを感じます。
日本舞踊の文化や美しさを少しはわかった気がしました。
「奴さん」は生徒が代表で踊ってみました。こちらは縦の動きのある軽快な踊りです。
女性が男を男性が女を踊りました。手足しぐさの違いと姿勢の違いで演じ分ける踊りでした。 

5. 日本舞踊とは

①性別、年齢、身分を越えて好きなものを演じることができます。
②素材を活かす文化が元になっているので、その人しか出せない美しさがでます。
③舞は重心が下にある動きなので生活に必要な体幹を鍛えることができます。
④見立ての文化から想像力や心の豊かさが身に着きます。
⑤着物と言う芸術品を見にまとうことができます。
⑥体を動かして心も脳も元気になります。
⑦何より、楽しい。

6. 先生の思い

日本は自然に恵まれた島国で豊かな心や多様な文化が育まれてきました。
その国の生活や思想、歴史、宗教感などから生また文化はその国らしさを表わしています。
日本の文化は日本の精神を「型」として先人達が伝え残してきた物です。
私たちにできることは日本らしさを伝え残す事だと思います。