江戸期の農書を読む
滋賀県民俗学会理事 の 粕渕 宏昭 先生の講座です。
全5回の 第1回 「農書について学ぶ ・ 江戸期の農書を読む」 は、12月22日(金曜) 終日 彦根キャンパスでの講座でした。
農書の中には、面白い民俗学が入っています。
今回の講座では、 日本農業全集(全35巻)の第一集、第7巻 「(近江)農稼業事」 (著者 児島如水(1793~1818)、とその孫 児島徳重)に収録された
江戸期農書が紹介されました。
この本のなかで、稲刈りの後の乾燥方法としての、「稲のかけ干しの方法」 の記述とわかりすい図解、そしてその効能についての記述があります。著者の児島如水は、滋賀県湖東の出身とされ、稲の掛け干しは、滋賀県では江戸期より用いられていたと考えられています。
農稼業事に記載がある 「稲の掛け干し」 の仕方とその利点
文化5年(1808年)7月 児島徳重が、大阪今宮の薬店にて、稲刈り後の乾燥方法である、掛け干しの仕方と、その利点について、この本に記したとされます。
稲刈りの後は、籾の乾燥作業が必要ですが、その方法として ”掛け干し” を行うと数々の利点がある事が紹介されています。以下に、本の記述の要約をまとめてみました。
掛け干しの方法
水田の四隅にしっかりと5尺程度の杭を立て、しっかりとした縄を杭に括り付け張り渡します。杭と杭の間には、縄がたるまぬように竹を三股に組み地面に差し込みます。一反あたりの材料は、杭5尺4本、竹8,90本、縄約50間を用意します。(図を参照ください)この程度の資材であれば、面倒はないと述べています。
掛け干しの利点
① 籾を干すための “むしろ” がいらない
② 屋敷内の広い籾干し場が必要なくなり、朝夕の籾を干したりいれたりする手間がなくなる
③ 刈り取りの適期を逃す心配がなく、完全に成熟した時に刈り取ることができる
④ 天気によって刈り取り作業を見合わせる心配はなくなる。刈り取ってすぐ縄に掛けるので、少々の降雨があってもそれほど気に掛けることはない
⑤ 裏作麦の準備をするにも都合がよい。田の三方の縄に、刈り取ってすぐ掛け干しするので、翌日には空いたところの地拵えができる
米の質の向上
掛け干しをすることで穂先を下に干す事により稲わらの精気が自然と穂先に下る。これにより、籾が重くなり、米につやができ、米の質が向上する。
その結果、年貢米として不合格になることもなく、保存時に虫がつかない。値もあがる。
”むしろ” 干しと比べて、桝数が多くなり収量増となる。炊飯時も良く膨らんで一割くらいの差がある。
藁の品質も向上する
掛け干しすれば、風のとおりもよいので、藁がむれることがなく、質も優れ、丈夫になる。
虫がつきにくい俵、縄、こも、むしろ、ぞうり、わらじ、牛馬の沓などに加工ができ、役立つ。また、上質な藁は、高値がつく。
むしろ干しに比べて、掛け干しは、一把ずつかけて干すので、藁も良く乾き、米質も良くしまる。
稲わらの精気が穂にくだり、わらにうま味が残らないので、虫がつかない。
江戸時代においても、収穫後の 米や、藁の品質をあげ、少しでも生活を楽にしようと考えた先人の知恵が見える資料であることを学びました。
農業全書について
農業全書は、元禄10年(1697年)刊行された農書で、宮崎安貞著で、日本最古の農書です。 これは、以下のように全11巻から成り立っています。
この書は、岩波文庫で、復刻され 現在絶版と講座では話がありましたが、2023年10月5日に 第12刷発行となりました。私がAMAZONで注文したところ手元に届きました。
また、国会図書館のサイトに電子版としても保存されています。
・第1巻 農事総論
・第2巻 五穀之類
・第3、4巻 菜之類
・第5巻 山野菜之類
・第6巻 三草之類(ワタ、藍(あい)、タバコなど工芸作物)
・第7巻 四木之類(茶、漆、楮(こうぞ)、桑)
・第8巻 果木之類
・第9巻 諸木之類
・第10巻 生類(しょうるい)養法(家畜、家禽(かきん)、養魚)・薬種類
・第11巻 附録(農民の心得)
1巻は農事総論、2巻から10巻は農作物(100種余)・有用樹(13種)・有用動物(4種)・薬種(20種)の栽培法と飼育法を述べた各論で、以上は元福岡藩士の宮崎安貞著
11巻は付録で貝原益軒の兄貝原楽軒の著です。 この書は、多くの農作物,家畜について書かれており当時の農民のバイブルであったと思われます。
農稼業事に記載されている 農事図
農稼業事には、田の拵え、 田植え、 夏の草引き、 稲の刈り取り といった 米作の手順が図解され、文字が読めない人でも直感的にわかるようになっていることを勉強しました。
下記図を参照下さい。