腎臓と骨の連携から見た健康寿命の延伸

講師 滋賀県立大学 人間文化学部 生活栄養学科
    滋賀県立大学大学院 人間文化学研究科 健康栄養部門 辰巳 佐和子 先生

1. 健康寿命

①滋賀県は男性1位、女性2位の長寿県
次の疾患による死亡率の低さが顕著です。
男性の脳血管疾患の低さ全国1位
ガンによる死亡率の低さも全国2位
心疾患(高血圧を除く)による死亡率の低さも全国5位
理由の調査では喫煙率の低さ全国1位、食塩摂取量の低さ全国5位が目立っています。
健康寿命は男性が4位ですが女性は46位となっています? 女性の46位は意外です。
調査では自分の健康感を記入する部分があり、滋賀県の女性は控え目な表現が多いのではと想像されています。
②健康寿命とは
健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間で、医療や介護、支援をうけない健康で自立した期間です。2016年は男性72.1歳、女性74.8歳でした。
健康寿命の延伸は支援される側と支援する側の双方の負担軽減につながります。
摂取カロリーを40~60%制限すると若く見え、寿命が延びる事が知られています。
医療費、介護費の削減、社会保障費の削減につながる国家財政の重要な課題です。
③養生訓(江戸時代のベストセラー)
著者 貝原益軒は84歳で亡くなりますが、その前年83歳の時に出版した本です。
驚くべきことに、現在に通じる内容がすべて書かれています。
★養生の道
・食事は食べ過ぎず、毎日、自分に合った適度な運動をする
・病気になってから治療するのではなく、病気にならない努力をする
・養生のための生活を習慣化することが大切
・夜更かしはしない、だらだらと寝すぎない
★食生活
いろいろな味のものをバランスよく食べる
・夕食は朝食より少なめにする
・食欲を抑え、食欲に勝てる精神力を持つ事が大切
・食後はじっと座るのではなく、軽い運動を行う
・酒は少しにして呑みすぎない
・塩分の少ない食事をとる
・煙草は毒であり、習慣化すればやめ難くなる
※その他に性生活、住まい、睡眠、排泄、薬の服用、高齢者の生活 などが記されています。

2. 健康寿命と食事

①時間栄養学
2017年、生物にはハエから人まで体内時計があるという研究がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
これをきっかけに時間栄養学が注目されるようなり以下のようなことが判明してきました。
・朝の光と朝食が体内時計をリセットする。
 人の体内時計は24時間より少し長いので毎日リセットすることが大事です。
 朝の光が目から脳に届くと、メラトニンが合成されシャキッとします。
 リセットして正しくメリハリのある体のリズムで生活することが大事です。
 リセットがうまくできないとダラダラ生活のリズムになり、同じカロリーを摂取してもメタボになります。
 冬季光の少ない英国、北欧では体内時計が乱れる人が多くいます。
 夜間の仕事がある人も同様で体内時計が乱れやすく、感染症に罹りやすい傾向があります。
 24時間の体内リズムにも傾向があります。
 13~15時は血中アドレナリンが最高値に達し15~17時には体温、血圧、握力が最高値になるなどの傾向があります。
 これはパリオリンピックなどで最高のパフォーマンスを出すために体内時計の適切なリセットが重要な事を示しています。
・高脂肪食は体内時計を減衰させます。→ダラダラ生活リズムに近づく
・カフェインは体内時計を伸長させます。
・朝食抜きもダラダラ生活リズムになり太りやすくなります。
②体内時計の重要性
人類が誕生した時から地球の自転に合わせて24時間リズムで生活してきました。
体内リズムと活動リズムが乱れると睡眠障害、肥満他、疾病の発症につながります。
③朝食とは?
朝食:Breakfast は断食、絶食を破って取る食事という意味です。
睡眠の重要性は勿論ですが朝食を取りことで体が朝を認識するのです。
体内時計がリセットされるのです。
朝食を取らない→体内時計がリセットできず攪乱→体内時計は夜型にシフトする→栄養を蓄えて太りやすくなる。
断食時間が10~14時間あると肥満などの疾病予防につながると報告があり注目されています。
④体内時計を狂わせないために
・朝の光は推奨、夜の光(スマホ、PC)は夜型を助長するのでNG
・朝食をしっかりとり、体内時計をリセット
・休日も起床時間を守り、平日と2時間以上ずらさない
・カフェインを含むお茶やコーヒーは就寝の4時間前まで
・夜遅い運動は夜型を助長します。
・昼寝は午後3時まで、長くても30分以内
・寝室の明かりは暗め、影響の少ない赤系の色に
・深酒は睡眠が浅くなるのでやめましょう
・夕食は就寝の2時間前までに
・夕食が遅くなる時は18時ごろに分食し、後の食事は低カロリーに

3. 腎臓の話

①腎臓の働き
腎臓の重要な働きのひとつに、血液中の老廃物や塩分を「ろ過」し、尿として身体の外に排出することがあります。
この働きをしているのがネフロンです。
ネフロンは0.1ミリ~0.2ミリほどの大きさですが、1つの腎臓に約100万個あります。
ネフロンはふるいのような構造をしており、心臓から腎臓に流れ込んできた血液の老廃物がろ過されます。
健常な方では、赤血球やたんぱく質などはろ過されず、きれいになった血液が、腎臓から身体に戻ります。
ろ過された原尿には、老廃物以外に、アミノ酸やブドウ糖などの栄養素や、塩分(ナトリウム)やカリウム、リン、マグネシウムなど、さまざまなミネラル(電解質)も含まれています。
このような身体にとって必要な成分を再吸収することにより、体内の水分量を一定に保ったり、ミネラルのバランスを調整したり、体液を一定の弱アルカリ性状態に保っているのです。
②慢性腎臓病
腎臓の機能を維持するためにはネフロンの数を維持する必要がありますが、年齢と共にネフロンは減少していきます。
長生きすればいずれ全員が慢性腎臓病になり、人口透析が必要になってしまいます。
体内を正常に保つためには、ネフロンの減少をできるだけ抑える努力が必要なのです。
0.15g/gCr以上のタンパク尿が診断基準の一つ、もう一つがGFR<60ml/分/1.73㎡ この値が3か月を超えて持続する場合は慢性腎臓病と診断されます。
③腎臓を悪くする3つの要因
・血圧が高い(高血圧)→塩分を控え目に 高血圧の患者の30%に腎臓病がかくれている可能性があります。
・血糖値が高い→食習慣の改善
・高脂血症(血清脂質が高い)→食習慣の改善
★慢性腎臓病も生活習慣の乱れ(食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足)が引き起こす生活習慣病です。

4. リンの話

慢性腎臓病になるとリンの排出が正常にできなくなります。その結果、高リン血症を発症する危険が高まります。
高リン血症は次の症状を引き起こします。
・骨のもろさ:リンが過剰に蓄積されると、骨からカルシウムが溶け出し、骨がもろくなります。→骨粗鬆症
★腎臓が不要なリンを排出しないとリンとカルシウムの比率を一定に保つ為、骨からカルシウムが溶け出して骨が弱くなります。
 大腿骨骨折後の5年生存率は約50%と高い値を示しています。
・血管の石灰化:リンとカルシウムが結合して血管や腱に沈着し、動脈硬化を促進します。
リンは多くの食品に含まれていますが、栄養管理が難しい物質です。
特にタンパク質が豊富な食材に多く含まれています。(植物性タンパク質にはリンは含まれない)
リンの過剰摂取は老化に繋がります。食品のPH調整剤に隠れてリンが含まれているので要注意です。
リンを制限するとタンパク質の不足で筋力低下=フレイルの危険性もあるのでこれも要注意です。
プロセスチーズ、スナック菓子はリンが多いので要注意。

5. 慢性腎臓病とサルコペニア(筋肉量減少)

加齢と共に骨と筋肉が減少するので注意が必要です。筋肉量が減少すると骨折の危険が増します。
骨折は運動不足を招き、悪循環に至ります。
骨を丈夫に保つことは高齢者にとって重要です。
カルシウムを上手に摂取しましょう。
カルシウムを効率よく摂取するためにはビタミンDが必要です。
食品からの摂取できますが、短時間の日光欲で自らの体内で作ることができます。
カルシウムは積極的に摂取するべきですが、リンの摂取は注意して避けた方がよさそうです。

6. 質問と回答

①腎臓リハビリ中ですが、筋肉を増やす為にタンパク質を積極的に摂取した結果、腎臓が悪くなった。
回答:あり得る事です。
腎臓の状態によって摂取して良いタンパク質量が決まっています。制限を守って摂取する必要があります。
②プロテインの摂取に制限はありますか? 
回答:タンパク質としてプロテインでも構わないが過剰摂取は腎臓に悪く働くと考えられます。
過剰摂取にならないようにすることが必要です。