高齢期をもっと豊かな時期にするために ~充実したエイジングを目指して~

講師 滋賀大学教育学部 教授 神部 純一 先生

先生の講義は1年生の前期に「高齢者の自立とは何か」というテーマで受けています。
高齢者の自立は①自己決定権を行使する事②自由な選択権を行使できる事の二つを前提に生活全体の質を高めることを目標にし、そのための社会的支援はためらわずに利用する。
今回はさらに社会的依存者ではない高齢者を目指し、社会を豊かにする高齢者を目指してエイジングして行こうというものです。

1. はじめに

2024年の高齢化率は29%、平均寿命は男性81歳、女性87歳です。
高齢化率は65歳以上の全人口に対する割合ですが、1970年は7%、1994年が14%、2006年が21%です。
寿命が延びて高齢化率が上がる社会は、多くの高齢者が長く生きる時代になったという事です。
社会にとっても重大な問題になっています。
健康な高齢者の増加は以前の高齢者感ではなくなっています。

2. エイジングとは

年を取りたくないというアンチエイジングという考えがありますが、高齢期の自分を否定し過去の自分にすがろうとしているようにも見えます。
能楽を起こした世阿弥は自書「風姿花伝」の中でその真髄を書き残しています。
「時分の花」は若い演者には誰にでも備わっているがやがて失われていく。
「まことの花」は芸を磨く精進をした者だけが手にすることができるもので、生涯失われることはない。
「初心忘るべからず」この言葉には三ヶ条の口伝あり。是非とも初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず。この三つをよくよく口伝すべし。
若さはやがて失われていくもので真の美しさではない。
精進して磨いてこそ生涯失われない美しさが身につく。
精進するという事は志した時の初心を忘れないだけではなく、技術が身についた時々の技術レベルを忘れてはならない。
さらに高い境地に達した時でも終わりではなく、さらに上を目指すことを忘れてはならない。

3. エイジングの解釈

一般的の加齢とか老化など否定的に使われてきたが、円熟、熟成などにも使われていることを再確認したい。
お酒、バイオリン、チーズなど
エイジングには身体的な変化、社会的な役割の変化、心理的な成長があると思います。
特に心理的な部分は衰えるより成長して円熟してより高い段階に到達できると思います。
エイジングはこの3つ過程の総合的なものと考えるべきです。
高齢者は身体的な変化が大きい時代です。
社会的役割は少なくなり、身体の衰えは大きく、心理的な物は努力しないと得られません。
今まで医学を中心にエイジングを先延ばしにしようとしてきましたし、教育は次の世代のためのものでした。
しかし今後は、より良い高齢期を過ごす為に高齢者の教育も重要だと考えられます。

4. 学習成果を生かす

①生涯学習社会
生涯学習社会は、学ぶためだけの社会ではありません。
一人一人が人格を磨き豊かな人生を送ることができるように生涯にわたって学習することができ、その成果を適切に生かすことができる社会が実現されることが必要です。
高齢期は今まで経験しなかった心身の機能低下という困難や危機に直面します。
しかし、使わなければ衰えます。
社会的にも役割がありそれを演じてきましたが、それも少なくなります。
・脳にも筋肉にも適度に負荷をかける事が重要です。
・人間関係も先細りするので、新たな人間関係を作ることが必要です。
・新たなやりがいを作る必要があります。
②自らの知識や技能が必要とされ、役立っているという実感は生きがいを高める要素です。
  社会参加活動を行っている人は60%近くが生き甲斐を十分感じているというデータがあります。
③社会参加活動と健康についても、活動に参加している人は生活体力の低下が少ないことがわかっています。
  また、活動に参加している人は認知症に対しても予防効果をしましています。

5. フレイルと社会参加

フレイルは身体だけではなく、精神心理的フレイルもあるし、社会的フレイルもあります。
これらは相互に関連することを自覚しておきましょう。
フレイル予防の三つの柱
①栄養(食・口腔機能) 食べて栄養を補給する機能を保つ事。
②身体活動(運動・社会活動)筋肉を保持し骨を丈夫にする。
③社会参加(就労・余暇活動・ボランティアなど)人とのつながりを保つ。
以上の三点を包括的に対応し日常生活の底上げを図ることが重要です。 
「社会とのつながり」「生活の範囲」「心」「口」「栄養」「体」高齢者はこれらの一つでも不調をきたすとドミノ倒しに至る。
レイカディア大学のように(身体活動)・(文化活動)・(ボランティア地域活動)の3つがそろっているところは理想的ですが、一つでも欠けるとフレイルになる確率が上がります。

6. 社会参加は仲間づくりから

社会参加は必要と思ってもなかなかできません。
学習活動は絆を作る切っ掛けとして有力です。
一つの情報を共有する人間関係は相互に信頼し、親密になり理解し合うようになるという副次的は成果が期待されます。
男性は地縁に弱いので、学習活動で学びの縁づくりは良い仲間づくりになります。
ソーシャルキャピタル=社会関係資本と訳されますが、地域社会のつながりの深さ、信頼関係の強さなどを指します。
ソーシャルキャピタルが蓄積された地域では人々の相互信頼により協力が得られやすく、社会活動が効率よく、協力的に推進できます。
社会活動が盛んになるとソーシャルキャピタルが高まり、新たな社会活動に繋がるという好循環につながります。

7. 生涯現役を目指して

プロダクティブ・エイジング=生産的エイジングが提唱されています。
高齢者を「社会の依存者」ではなく「生産的存在」と見なそうという考え方です。
社会の中で高齢者も地域活動やボランティアを通していろいろなものを創り出せる存在でありたいものです。