文学から見る湖北十一面観音

いかいゆり子先生による、「近江と文学」 第3回目の講座です。講座の主テーマは文学から見る湖北十一面観音です。本題に入る前に受講生による2回目の本の紹介と、次回の校外学習の場所である沖島にまつわる文学(和歌)についての講義がありました。

①受講生による本の紹介 2回目

1人3分の時間で、自分の選んだ本の紹介を行いました。 今日の授業では、前回発表していない12名が本の紹介をしました。 ①なぜこの本を選んだのか? ②この本に何が書いてあったのか ③読んで思った事を発表するのが課題でした。パワーポイントにまとめて発表された方、時間が足らず急いで発表された方、など、楽しい発表でした。発表のあと、紹介された本のうちどれが読みたいと思ったかとの投票を行ったところ、山本兼一「火天の城」が一番人気となりました。 紹介された本の一覧は、このリンクをクリックしてください。

②校外学習について

3月29日の近江八幡方面への校外学習についての説明がありました。 沖島を訪問し、奥津嶋神社、石切跡、万葉歌碑、沖島小学校などを見学し、沖島で昼食。堀切港へ移動後、大嶋・奥津嶋神社、百々神社を見学する予定との説明がありました。企画担当の Iさん、Fさんそして会計のYさんお世話になります。

③近江八幡 沖島と歌碑の説明

沖島に関係した万葉集の歌があると 先生より説明がありました。
「近江の海 奥つ島山 奥まけて 我が思ふ妹が 言の繁けく」  沖島にいる恋人に会いたくて湖上に漕ぎだしたが、私を心待ちにしているのか?いろいろ人の噂がうるさい事です という歌です。歴史ファンを沖島に呼び込もうと、沖島コミュニティセンター前に 歌の歌碑が有志の方によって 2019.10.27 に建てられた事が紹介されました。

④小倉百人一首と近江

小倉百人一首とは

小倉百人一首は、飛鳥時代から、鎌倉時代(645-1192)の約500年余に作られた歌を 藤原定家が、代表的な和歌を集めて作った秀歌撰です。
近江ゆかりの歌は、29首ありますがこのうちの 6首の歌と、その歌碑がある場所の紹介がありました。

・「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」   小野の小町  歌碑 : 彦根市小野町
・「嘆けとて 月やは物を おもはする かこち顔なる わが涙かな」         西行法師    歌碑 : 米原市朝妻湊跡
・「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ」    権中納言定家 歌碑 :米原市藤川
・「人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふ故に もの思ふ身は」       後鳥羽院    歌碑 : 後鳥羽神社 長浜市名越町
・「このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに」       菅原道真    歌碑 :菅山寺 長浜市余呉町
・「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな」   紫式部      歌碑 :長浜市西浅井町塩津浜 在の取り組み

小倉百人一首に関する現在の取り組み

全国レベルで、競技かるた(「小倉百人一首」かるたの札を使い、読手が読んだ読み札に対応する取り札を 2人の競技者が相手より早く取ることを競います。)が実施されています。滋賀県では、近江勧学館で、名人位クイーン位線や、高校選手権が開催されています。詳細は、全日本かるた協会のリンクをご覧ください。
全日本かるた協会 のリンク (karuta.or.jp)

近江神宮を拠点とした、「大津あきのた会」は、小倉百人一首競技かるたを愛好する人たちの集まりです。

「大津あきのた会」に所属された 石沢直樹8段は、滋賀県勢で唯一名人位戦への出場経験があり、先頭に立って指揮をとられていましたが2021年7月にご逝去されました。

小倉百人一首は、お菓子や、カクテル、ラッピング電車としても使われており、現在も歌はいろんな場面で引き継がれています。

⑤湖北十一面観音を巡る

仏像は以下のような種類に分けられます。

如来 修行を遂げ、悟りを開いた者
菩薩 修行に励み悟りを求める者
明王 如来の化身または如来に代わって人々を救う仏
天部 担架委に住む守護神
 その他仏弟子 釈迦の高弟である羅漢、各宗派の開祖や高僧など

都道府県別の国指定 国宝・重要文化財指定件数(2014年2.10 京都新聞より)

観音菩薩像(93件)、薬師如来像(45件)、大日如来像(11件)と滋賀県内の指定件数は全国一位です。これは滋賀県においては無名の人たちの熱心な信仰心によって仏像が守られて伝えられてきたからと教わりました。

全国の十一面観音像(文化庁編「国宝・重要文化財総合目録」より)

国宝は7件、このうちの1件は滋賀の向源寺にあります。 また、重要文化財は190件ありますが、このうち35件は滋賀県にあります。

滋賀の十一面観音像(滋賀県編「滋賀県文化財目録」より)

国宝1件:湖北 向源寺
重要文化財35件:甲賀15、湖東8、湖南5、湖北6、湖西1

なぜ、湖北の十一面観音が広く全国に知られたのか?

甲賀には15件の重要文化財がありますが、湖北の十一面観音の方がよく知られています。これは湖北の優れた仏たちは大きな社寺に守られてきたものだけでなくこの地方に広く分布し、地域の暮らしに根付き、住む人々の信仰と深く結びつく中で守り継がれ大切に守られてきたからと考えられます。 また、「星と祭り」井上靖著、「十一面観音」・「かくれ里」白洲正子著、「湖の琴」水上勉著などで広く取り上げられ、全国に知られたことも有名になった要因であると考えられます

また、 滋賀県は、畿内と、東海、北陸を結ぶ交通の要衝であることから、仏教文化が早くから開け多くの仏教美術の遺品が残っています。中でも、仏像は国の指定品だけでも 400件を超え、この4分の一は観音像である点、 西国三十三カ所の巡礼地が6か所あり。「12番 正法寺(岩間寺)13番石山寺、 14番 園城寺(三井寺)30番宝厳寺(竹生島) 31番 長命寺(近江八幡)32番 観音正寺(近江八幡)」、このうちご本尊が十一面観音であるのは長命寺(千手十一面観音)、観音正寺(十一面千手千眼観音)であることも湖北や滋賀の十一面観音が広く知られた要因かもしれません。

湖北の十一面観音

国宝 向源寺 (高月町渡岸寺) は、多くの文学でもそのお姿が表現されています。この像は、密教思想の影響がみられことから平安初期(9世紀)に制作されたとみられており、文学作品の中に、この像のなまめかしさや、優美さを表現しているものがたくさん存在します。いかいゆり子先生によると、この観音像は、後ろから見た、腰をひねった立ち姿がなまめかしく特徴的であるとおっしゃっていました。講座の中では、この十一面観音の美しさを表現されている、11個の文学作品の紹介があり、以下に、心に残った一例を記述しておきます。

十一面観音巡礼 白洲正子著より

「印度の十一荒神の源を発するこの観音は、血の中の流れるもろもろの悪を滅して、菩薩の位に至ったのである。仏教の方では、完成したものとして信仰されているが、私のような門外漢には、仏果を志求し続けている菩薩は、まだ人間の悩みから完全に脱してはいず、それ故に親しみ深い仏のように思われる。十一面のうち、瞋怒面(しんぬめん)狗牙上出面、大笑面が7つもあるのに対し、慈悲相面が三面しかないのは、そういうことを現わしているのではなかろうか。」 と表現されています。

向源寺の十一面観音の特徴についての補足

 通常の十一面観音像では、菩薩面が3、瞋怒面が3、狗牙上出面が3、暴悪大笑面が1,頂上物面が1であるのに対して渡岸寺のものは、菩薩面が2、瞋怒面が左右に各2,狗牙上出面が左右に各2、暴悪大笑面が1,頂上仏面が0という珍しい構成であり、「まだ人間の悩みから完全に脱してはいず、それ故に親しみ深い仏のように思われる」 とういう表現がこの観音像をうまく表現しています。