講師 藤本直規 先生
医療法人 藤本クリニック / 認知症疾患医療センター連携型 / NPO もの忘れカフェの仲間たち理事長
1. 認知症とは
「正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために社会生活に支障をきたすようになった状態」を言います。
認知機能障害の中では記憶障害が早期に現れ、また中心となる症状です。
認知症と区別される症状は以下のようなものがあるので注意が必要です。
高熱などで起こる意識障害やせん妄、加齢による認知機能の低下、記憶障害ではなく、記憶する意思がないうつ状態や精神遅滞なども症状は似ています。
★認知症の診断
第1段階
問診、神経心理学検査、血液検査によって行われます。
第2段階
原因を診断するためにCTまたはMRIで検査します。
特に脳梗塞、脳腫瘍、血種による脳の圧迫などを検査します。
さらにSPECT、PET、DATスキャン、MIBGシンチなどで血流検査、脳の働きを見る検査が行われます。
これらの検査は早期のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の鑑別に役立ちます。
2. 早期発見が大切な理由
認知機能障害は家族や本人も意識している場合が多く不安な状態で生活されています。
早期発見は早くから本人と家族を支えることができます。
また早期であればできることがたくさんあり、進行を遅らせる割合が高まります。
本人や家族が将来について考えることもできるのです。
わずかな認知機能障害でも検査をすれば血種等の明確かつ重大な原因が判明することもあります。
緊急手術で一命をとりとめた事例も先生は経験されています。
認知機能障害は脳内で起こる各種の原因がかくれていることがありますから、「以前と違う」という症状があれば早期の検査が必要です。
かかりつけ医が診察室の中で会話だけを手掛かりに認知症状に気づくのは困難なことです。
ある程度症状が進んだ患者でも残存能力が備わっています。
昔の記憶、体に染みついた仕事の能力、運動機能、挨拶など社会性、ユーモアなどの能力は発揮できる場合が多いようです。
昔のことも良く覚えているし、挨拶も普通で冗談も言える、大工仕事も上手にできるし自転車にも乗れます。
それでも認知症だった事例があります。
ポイントは短期記憶、自分が置かれている状況の把握である見当識などの質問には認知機能障害が現れ易いそうです。
「その人らしさが無くなってきた」ことに気づくことがポイントです。
・日時を間違える頻度が増える
・小銭を使えず、札ばかりを使うようになる
・身づくろいができず、服装が乱れる
・できていた他人への気遣いができなくなる
・いろいろな決まりごとが守れなくなる (カレーの材料を買い出して、肉ジャガを作ってしまう)
3. 認知症の治療
①薬物療法 塩酸ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン 等を使いアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。
薬物には副作用もあるので徐脈、胃潰瘍、喘息などの人には注意が必要です。
②非薬物療法 薬物を使わず、本人の不自由さを知ったうえで認知リハビリテーションを行います。
認知機能が維持できるように、環境整備などを活かした認知機能の補強を行います。
4. 認知症の種類
認知症のタイプ別割合
①60%以上がアルツハイマー型認知症です。この中には脳血管障害を伴うアルツハイマー型も含まれます。
②14% 脳血管性認知症
③ 9% レビー小体型認知症
④ 5% 前頭側頭葉変性症
⑤正常圧水頭症、アルコール性認知症、外傷による認知症、その他の認知症
アルツハイマー型認知症の経過
物の置忘れなど、年齢相応の認知機能の低下は認知症には含まれません。
①境界状態
熟練を要する仕事の場面では機能の低下が同僚によって認められます。
新しい場所に旅行することは困難です。
②軽度アルツハイマー型認知症
夕食に客を招く段取りをつけたり、家計を管理したり、買い物をしたりする程度の仕事でも支障をきたすようになります。
③中程度アルツハイマー型認知症
介助なしでは適切な洋服を選んで着ることができなくなります。入浴も時に何とかなだめて説得が必要なことがあります。
④やや高度なアルツハイマー型認知症
不適切な着衣。入浴に介助を要する。入浴を嫌がる。トイレの水を流せなくなる。失禁する。
⑤高度のアルツハイマー型認知症
最大約6言語に限定された言語機能の低下。
理解しうる語彙はただ一つの単語となる。
歩行機能の喪失。着座能力の喪失。笑う能力の喪失。昏迷及び昏睡
軽度認知障害(MCI)について
この状態は認知症ではありませんが、10%程度は認知症に進展するので必ず、受診を継続することが重要です。
症状
記憶障害の自覚が本人または家族からあり、日常生活動作も全般的な認知機能は正常である。
年齢や教育レベルでは説明できない記憶障害が存在する場合はMCIと診断されることが多い。
将来、認知症になってしまうのではという不安に応えていく事と認知症ではない検査は不要ではなく、経過観察が重要です。
レビー小体型認知症(DLB)
認知機能障害の他に視覚機能障害、幻視などが中心的特徴です。
特にレム期睡眠行動異常症が示唆的な特徴になります。
ひどい寝言を言いながら同時に行動する状態を言います。
進行すると多くの場合、幻視が見えるようになります。
意欲の低下も起こるようです。
5. 認知症の症状とケアの工夫
①記憶障害へのケア
記憶障害の中で障害されやすいものは記銘力とエピソード記憶です。
つまり「すぐ必要になることを覚えこむこと」と「生活の中で起こった出来事の記憶」です。
長期の記憶や体に染みついた記憶、長く保存されて知識などは障害されにくいものです。
この症状に対する配慮
・話し方のスピードを考えて工夫しましょう。
・一気に多くのことを伝えようとせず、一つ一つ丁寧に伝えましょう。
・読んで理解できるように工夫しましょう
・理解し易いようにヒントを出しながら話しましょう。
②見当識障害へのケア
見当識、つまり自分がいつ、どこで、誰と、何をしているのか状況把握ができにくい状態です。
この障害は変化の大きいものから忘れやすいので、時間、場所、人の順で忘れやすくなることを知っておきましょう。
接し方
・時間を意識できるような効果的な言葉のかけ方を考えましょう
・時計、カレンダー、アラームなども活用しましょう
・目で見て気づける工夫をしましょう。
・自分の居場所の理解ができないこともあるので、文字の看板や矢印、短い言葉などで行動しやすく工夫します。
③実行機能障害
この障害は何かをしようと思いつけない、具体的な計画を立てられない、計画を実行できない、計画中に計画を忘れてしまうなどです。
カレーを作るための材料を揃えたのに、できた料理は肉ジャガだったという症状です。
・次の行動がわかるような言葉掛や工夫をしましょう
・どこを見たら良いのか、わかりやすくしましょう
6. 診療の実際 (診断と家族支援)
①藤本クリニックは相談センターでもありますから、受診前の相談にも対応しています。
受信方法、症状への対応、緊急受診の手配や地域包括支援センターへの連絡など診療前から患者と家族への支援は始まっています。
②認知症を疑うきっかけになった変化
・もの忘れ、忘れ物、置忘れが頻発するようになった
・時間や日時がわからなくなった
・仕事や家事が以前のようにできなくなり支障をきたすようになった
・クレジットカードや銀行通帳の取り扱いができなくなった
・服薬がきちんとできなくなった
・ふさぎこんで、何をするにも億劫になり嫌がるようになった
・気候に合った服を選んで着ることができなくなった
・入浴しても洗髪は困難になった
③認知症のコミュニケーション
大事なことは命を吹き込む言葉、自信や人間性を育む言葉です。
・ありがとう
・手伝ってもらって、本当にたすかったわ
・あなたのおかげで、今日一日とても楽しかったわ
・うまくできましたね
・私といると大丈夫よ
7. 様々な認知症ケアの場所(藤本クリニックの場合)
クリニックの取り組み(薬物療法、非薬物療法)20年間の実績
診断実績 新患 年間450名(70%が軽度)緊急時間外受診 月10名 BPSD往診 月数名 アミロイドPET画像診断 13名
非薬物療法 ①外来心理教育 ②本人家族交流会 ③仕事の場 ④もの忘れカフェ ⑤社会交流の居場所 Hej
地域連携 ①相談センター ②現地相談 ③連携の会 ④若年認知症企業研修
心理教育の目的
受診の早期化が進み、本人自身が正しく病状を知ろうとしている姿が多くなりました。
自分自身に起きている様々な生活機能障害の原因を知り、その対処方法について仲間と考えることができます。
家族も病気への理解を深めながら、本人がどのように受け止めているのかを知り、同じ立場同士で話し合うことができます。
本人・家族交流会
本人たちも年齢や病気の違いに関わらず、共に過ごし、語り合う場となります。
初めての参加者は本人・家族とも、この場の経験から介護認定を利用することを受け入れ易いようです。
さらには、診断直後の参加を受け入れることで、本人・家族を孤立させないために、診断直後の支援体制の一つとして重要です。